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第30話 映っていた八人目

ผู้เขียน: なつめ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-08-22 16:54:23

 映像は、何度止めても同じ場所から始まった。

 雨に濡れた七刻女学校の校門。

 錆びた鉄柵。

 まだ誰も到着していない山道。

 そして、午後十時四十分を少し過ぎた時刻。

 黒い雨具を着た人物が、画面の左端から現れる。

 理科準備室の床へ置かれた古いビデオカメラを囲み、五人は黙ってその姿を見つめていた。

 人物は深くフードを被っている。

 顔は見えない。

 背丈は朔や悠斗と大きく変わらないようにも見えるが、厚い雨具のせいで肩幅すら判別しづらい。歩幅も一定ではない。わざと特徴を消して歩いているようだった。

 人物は門の前で立ち止まる。

 腰を屈める。

 地面へ置かれていた太い鎖を拾った。

「巻き戻して」

 美月が言った。

 朔が映像を数秒戻す。

 黒い人物が鎖へ触れる直前。

 門にはまだ、六つの木箱がない。

 再生。

 人物は鎖を外し、門扉を人一人が通れる幅だけ開いた。

 そのあと画面の外へ消える。

 二分ほどして戻ってきたとき、両手に古い木箱を二つ抱えていた。

 一度。

 二度。

 三度。

 往復し、六つの箱を門前へ並べる。

 雨宮澪。

 神代朔。

 早乙女美月。

 黒瀬悠斗。

 白石奈々香。

 相馬透。

 それぞれの名札を確認するように、人物が一つずつ蓋へ手を置く。

「最初から、こいつが置いた」

 悠斗の声が低くなった。

「箱も。鎖を外したのも」

「装置の起動時刻とも近い」

 朔は監視室で撮影した操作記録を呼び出し、時刻を照らし合わせる。

「管理者の最終ログインが十一時七分。その前後に、各部屋の制御装置が待機状態へ入ってる」

「この人がやった?」

 奈々香が訊く。

「可能性は高い」

「透を殺したのも?」

 声が震える。

 誰もすぐには答えなかった。

 画面の中で、黒い人物は最後の箱を置き終えると、校門を抜けて校舎へ向かっていく。

 右手には撮影用のカメラ。

 左手には小さな黒い鞄。

 管理通路にあった装置を操作するための端末が入っていたとしても不思議ではない大きさだった。

「待って」

 澪が画面へ近づいた。

「手」

 黒い人物が雨具のフードへ触れる。

 袖口が少し上がる。

 右手首に腕時計。

 黒い文字盤。

 銀色の縁。

 太い革のベルト。

 悠斗が自分の手首を隠すように腕を下ろした。

 八年前の映像。

 理科準備室へ澄花を押し込んだ人物。

 画面の端へ一瞬だけ映った時計と、よく似ている。

「またこれか」

 悠斗が吐き捨てた。

「俺じゃない」

 誰も責めていないのに、先に否定した。

「同じ時計は全員持ってた」

 朔が言う。

 澪は彼を見る。

 高校時代。

 心霊研究会で動画投稿を始めた頃、七人は同じ腕時計を買った。

 高価なものではない。

 学校の近くにあった雑貨店で売られていた安価な時計。

 悠斗の提案だった。

 撮影中、誰の手が映り込んでも部員だと分かる。

 そんな理由だった。

 澪も持っていた。

 美月も。

 奈々香も。

 透も。

 澄花も。

 朔も。

「私は事件のあと捨てた」

 奈々香が言った。

「見るのが嫌で」

「俺のは壊れた」

 朔が答える。

「俺は今も使ってる」

 悠斗は自分の腕時計を見た。

 八年前のものではない。同型を後から買い直したと、以前説明していた。

「つまり時計じゃ絞れない」

 美月が言う。

「七人全員が持っていたなら、犯人を示すものにはならない」

「でも、八年前の犯人も今夜の奴も同じ時計をしてる」

 奈々香が腕を抱いた。

「偶然?」

「同じ人物だと印象づけたいだけかもしれない」

 朔が答える。

「本当に同じ人間かもしれない」

 悠斗が返した。

 朔は反論しなかった。

 澪は画面の黒い人物を見た。

 七不思議の装置。

 監視室。

 透を殺すための台本。

 数か月にわたる生活の監視。

 偶然でも、思いつきでもない。

 誰かが時間を掛けて、この夜を作った。

「続きを」

 澪が言った。

 朔が再生する。

 黒い人物が校舎へ入り、画面から消える。

 時刻が進む。

 雨だけの映像がしばらく続いた。

 午後十一時過ぎ。

 山道の奥から懐中電灯の光が揺れる。

 六人が現れた。

 澪。

 朔。

 美月。

 悠斗。

 奈々香。

 透。

 八年ぶりに集まった、生き残った六人。

 映像の中の澪は傘を握り、何度も校舎を見上げている。

 朔は半歩前。

 美月は救急鞄。

 悠斗は工具箱。

 奈々香は小型カメラを隠した鞄。

 透は首にヘッドフォンを掛けている。

「この映像、誰が撮ってるの」

 奈々香が呟いた。

 誰も答えられない。

 撮影位置は校門の少し斜め上。

 監視室にあった固定カメラとは角度が違う。

 さらに、画質も異なる。

 八年前の古いビデオカメラ特有の粗い粒子。

「入る」

 映像の中で、六人が門を越えた。

 その後ろ。

 澪が息を呑んだ。

 少女が歩いていた。

 制服。

 長い黒髪。

 右手首の赤い組紐。

「澄花」

 美月が囁く。

 八年前の姿のまま。

 雨に濡れながら、傘も差さず、六人の後ろを歩いている。

 足取りは普通だった。

 引きずるでもない。

 浮いてもいない。

 ただ、七人目としてそこにいる。

 現実のあの夜。

 誰も見ていなかった。

 少なくとも、澪は見ていない。

「今夜、最初から一緒にいたの?」

 奈々香の声が掠れる。

 朔は映像を止めずにいた。

 少女は校門を越える。

 六人のあとを追う。

 その姿が木立の影へ入ったとき。

 画面の右端で、何かが動いた。

「待って」

 澪が言った。

 朔が一度止める。

 木の陰。

 黒い人影。

 再生。

 先ほど先に校内へ入ったはずの、黒い雨具の人物が現れた。

「戻ってる」

 悠斗が画面へ顔を寄せる。

「いつの間に外へ」

 黒い人物は木立の奥で、六人が到着するのを待っていたらしい。

 そして。

 澪たち六人。

 制服姿の澄花。

 その七人が校舎へ向かったあとを、一定の距離を置いて追い始めた。

 映っている人数は八人だった。

 奈々香が数える。

「一……二、三、四、五、六」

 声が震える。

「澄花で七」

 最後の黒い人物。

「八」

 理科準備室に、誰かの呼吸音だけが残った。

 今夜、七刻女学校へ入ったのは六人だと思っていた。

 澄花を数えるなら七人。

 だが映像には、さらにもう一人いる。

「八人目」

 澪が呟いた。

 黒い人物は校舎の玄関まで来る。

 一度だけ立ち止まる。

 顔は上げない。

 そのまま暗闇へ消える。

 映像が終わった。

「情報を見る」

 朔がカメラを手に取った。

 バッテリーは入っていない。

 端子も空。

 それなのに液晶だけが青白く点灯している。

 再生ファイルの詳細を開く。

 記録方式。

 映像形式。

 音声形式。

 製造番号。

 朔の指が止まった。

「何」

 澪が訊く。

「撮影機器の識別番号」

 朔はカメラ本体の底を裏返した。

 擦れて薄くなった番号。

 画面へ表示されたものと、一致している。

「このカメラで撮ったことになってる」

 悠斗が笑いかけて、やめた。

「今夜の映像を?」

「ああ」

「でも、それが今ここにある」

 美月が言った。

「バッテリーもない」

 澪は古いカメラを見た。

 これが今夜の校門を撮影するなら、撮影時刻には外に設置されていなければならない。

 だがカメラは、理科準備室の保管庫から今見つかった。

 八年前、警察へ提出されたはずの機体。

「複製された識別番号じゃないの」

 奈々香が訊く。

「できなくはない」

 朔は答えた。

「でも、映像データにはこの機種特有の記録情報も残ってる。番号だけ書き換えたようには見えない」

「じゃあ何」

「分からない」

 朔がそう答えた瞬間。

 理科準備室の照明が消えた。

 闇。

 奈々香が短く悲鳴を上げる。

 五人のスマートフォンが一斉に振動した。

 画面が点灯する。

 七つの学校章。

 すべて赤く塗られていた。

 一つ目。

 二つ目。

 三つ目。

 四つ目。

 五つ目。

 六つ目。

 最後の一つも、血を染み込ませたような赤。

 その下に文章が表示される。

 七不思議は終了しました。

 誰も喜ばなかった。

 さらに文字が続く。

 忘れ物は六つ返されました。

 あと一つです。

「六つ?」

 美月が呟く。

 澪は門前の木箱を思い出した。

 自分の赤い組紐。

 朔の予備バッテリー。

 美月の小瓶。

 悠斗の番号札。

 奈々香の赤い髪留め。

 透のカセットテープ。

 六つ。

「七つ目がなかった」

 澪が言った。

 朔が見る。

「澄花の分」

 八年前、澄花は黒い布袋を持っていた。

 その中に入っていたもの。

 白い顔。

 閉じた目。

 赤黒い唇。

「返し雛」

 奈々香が息を呑んだ。

 澄花が持っていた日本人形。

 殺された者の記憶を集めるという呪物。

 七つの場所から盗まれたものを返せ。

 最初のメールに書かれていた言葉。

 澄花が七刻女学校へ持ってきたのは、返すためだった。

 なら。

「人形が最後」

 美月が言った。

 スマートフォンがもう一度震える。

 新しい画像が届いた。

 古びた和室。

 畳。

 染みの浮いた壁。

 何もない部屋の中央に、小さな日本人形が座っている。

 澪の背中が冷えた。

 知っている。

 仕事で何度も写真を見た。

 三人の住人が失踪した古いアパート。

 常世荘。

 記事を書いていた、あの部屋。

 画像の下に住所。

 常世荘 二〇三号室。

「二つ目の場所」

 澪が呟く。

 最初のメールに並んでいた七つの住所。

 七刻女学校の次。

 常世荘。

 その瞬間。

 校舎中で金属音が鳴った。

 一つではない。

 扉。

 窓。

 錠。

 何十もの金具が同時に外れる。

 遠くで、校門の鎖が地面へ落ちた。

 じゃらん。

「開いた」

 悠斗が言う。

「出られる」

「透を迎えに行く」

 美月はすぐに理科準備室を出た。

 誰も反対しなかった。

 五人は二年七組へ戻った。

 校舎はもう道を歪めなかった。

 階段は十二段。

 廊下もまっすぐ。

 照明はほとんど消えているが、出口へ向かう非常灯だけが点いていた。

 二年七組の前。

 朔が足を止める。

 封印用のテープ。

 破られていない。

 上。

 下。

 油性ペンの印も一致している。

「開いてない」

 美月が扉の細いガラスへ光を向けた。

 顔が凍りつく。

「透?」

 教室へ入る。

 机。

 窓。

 澄花の席。

 すべて同じ。

 窓の封印も破られていない。

 内側の机も動いていない。

 だが。

 透を横たえていた簡易担架は空だった。

「いない」

 奈々香が呟く。

 美月は部屋の奥まで走り、机の下を確認する。

「透!」

 返事はない。

 遺体だけが消えている。

 担架の中央には、一本のカセットテープが置かれていた。

 濡れている。

 ラベルには、透の字。

 青いペン。

 七刻女学校・八人目

「誰が持ち出した」

 悠斗が扉を見る。

「封印はそのままだぞ」

「管理通路」

 美月が言う。

 朔が壁側を見る。

「この教室には直接つながってない」

「じゃあどうやって」

 誰も答えられなかった。

 澪はカセットテープへ近づく。

 その瞬間。

 廊下の奥で赤い光が灯った。

 撮影用カメラの録画ランプ。

 一度。

 消える。

 また灯る。

「誰かいる」

 朔が走った。

「朔!」

 澪たちも追う。

 黒い影が角を曲がった。

 朔が数秒遅れて廊下の角へ飛び込む。

 誰もいない。

 窓。

 閉じた教室。

 空の廊下。

「どこ行った」

 悠斗が息を切らす。

 朔は床へ光を向けた。

 濡れた足跡がある。

 小さい。

 女子生徒用の上履き。

 一歩。

 二歩。

 暗い廊下の奥へ続いている。

 その横に、もう一組。

 裸足。

 同じくらい小さな足。

 五人は声を失った。

 二人の少女が、並んで歩いたように。

 片方は上履き。

 片方は裸足。

 足跡は途中で重なり、再び離れ、校舎の奥へ続いている。

 天井のスピーカーから雑音が流れた。

 ざあ。

 少女の呼吸。

 そして、澄花の声。

『七不思議を作ったのは、人間だよ』

 澪は足跡を見つめたまま動けない。

『でも』

 上履きの足跡が、一つだけ新しく浮かんだ。

 その隣に裸足の跡。

『ここにいるのは、私だけじゃない』

 廊下の最後の照明が消えた。

 真っ暗になる。

 朔が懐中電灯をつけようとする。

 その直前。

 闇の奥で、少女が笑った。

 澄花ではない。

 奈々香でも、美月でもない。

 誰も知らない、幼い少女の笑い声だった。

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